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1.分子構造の変化と機能性メカニズムの研究

​ ポリアミンはヒトを含むほぼ全ての動植物にとって細胞分裂に必須の生体物質であり、生物学的に重要な低分子化合物として知られています。ポリアミンの化学構造に目を向けると、一分子中に複数のアミノ基を有しており、非常に求核性が高いことが想像できます。実際、フラスコの中で親電子性の高いアルデヒド化合物などと混合すると、簡単に反応します。そして実は、私たちの身体の中にも、グルコース(還元型)を始めとして、グリセルアルデヒドやメチルグリオキサールなど、アルデヒド基を持つ低分子化合物はいくつも存在しています。しかしこれまで、このような物質とポリアミンとの化学反応が生体内で起こっているという報告は一つもありません。グリセルアルデヒドやメチルグリオキサールも化学的反応性の高い化合物であり、毒性や一部の疾患との関連性が指摘されています。ポリアミンが反応することで、これらの化合物の毒性の軽減や無毒化に寄与していることは十分に考えられます。しかしポリアミンは反応点が多いため、無保護の状態では非常に複雑な反応をします。また塩基性の強さと親水性の高さから、ポリアミンやポリアミン誘導体は分離や分析自体も容易ではありません。それ故に、たとえポリアミンが生体内や自然界で化学反応をしていても、その誘導体を単離し、構造決定することは困難であると考えています。そこで、反応理論に基づいて生成し得るポリアミン誘導体の構造を推測し、有機合成の手法でそれらの化合物をモデル体として合成しています。そしてそれらのモデル体を標品として、LC/MSやLC/MS/MSなどを用いた成分分析条件を検討して、実際に生体試料や天然物、食品などに含まれるかを検定したり、機能性や毒性を調べたりする研究を行っています。

学会発表
・日本糖質学会第41回年会(大阪)2022年9月29-10月1日「新規スペルミジン型終末糖化産物の細胞成分としての同定」下田優人、藤本 崇、田代 充、藤田智之、筒井 歩

・日本糖質学会第41回年会(大阪)2022年9月29-10月1日「食品の加熱により誘導される新規スペルミジン関与型終末糖化産物の同定」杉浦広季、森下雄太、藤田智之、筒井 歩

・日本糖質学会第40回年会(鹿児島)2021年10月27-29日「グルコースとポリアミン類から誘導される終末糖化産物類縁体の生成と分析」杉浦広季、森下雄太、藤田智之、筒井 歩

・日本糖質学会第38回年会(名古屋)2019年8月19-21日「スペルミジンおよびプトレシン型AGEsのモデル体合成と細胞に対する挙動」高見澤美結、森下雄太、藤本 崇、藤田智之、筒井 歩

研究費助成
・信州農林科学振興財団清水純夫基金(2018年度)
・科学研究費基盤C(2020-2022年度)

「ポリアミンの化学反応と機能メカニズムの解明」
 

「グルタチオンの構造変化と機能メカニズムの解明」
 

​ グルタチオン(GSH)には、細胞内に入ってきた異物を細胞外へ排出する機能と、酸化ストレスの基になるラジカルを捕捉する(還元作用)という、主に2つの機能が知られています。つい最近、私たちはGSHが温和な条件下で選択的に環化(9員環チオラクトン)構造になることを発見しました。さらにこの環化体は、従来のGSHに比べて、2倍の還元作用を有することも見出しました。それはこれまで知られているGSHの還元作用とは異なるメカニズムであることを示唆しています。そして実際にラジカル反応後の生成物がGSHのそれとは異なることを明らかにしました。私たちはこの事象を、これまでに知られていないGSHの第3の挙動として注目しています。現在、この環化体の化学的反応性や生理的挙動についてさらに詳しく調べる研究を行っています。











論文発表
"Generation of cyclic glutathione via the thiolactonization of glutathione and identification of a new radical scavenging mechanism" Ayumi Tsutsui *, Yuta Morishita, Hiyori Furumachi, Takashi Fujimoto, Rina Hirai, Tomoyuki Fujita and Tomoya Machinami, Tetrahedron Letters, 2021, 68, 152836.

学会発表
・日本薬学会第140回年会 2020年3月(誌上開催)「グルタチオンの環化とラジカル捕捉機能の新規メカニズム」古町ひより、森下雄太、藤本 崇、藤田智之、筒井 歩

研究費助成
・ホクト生物科学振興財団(2017年度)

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2.分子間相互作用による分子挙動の変化に関する研究

「ポリアミン類縁体の分子間相互作用と分子挙動の解明」
 

​ ポリアミンは非常にカチオン性の高い化合物です。そのため、マイナスチャージを持っている分子とはお互いに磁石のように引き付け合い、相互作用をします。私たちは最近、ある2種の低分子ポリアミン類縁体同士がお互いに相互作用し、混合比依存的に相互作用が強くなるという現象を見出しました。このような現象は、成分分析に重要な要素であるLC/MSのリテンションタイムが、化合物同士の混合比率などの違いでズレるなどの問題を引き起こします。そしてそれは、新規な物質を天然物や生体物質の成分として見出す過程において、大きな障害となります。一方で、ポリアミン類縁体の構造に特徴づけられるこういった現象は、例えば細胞表層を形成する糖鎖や、私たちの生体に様々に存在するタンパク質などと相互作用し、何らかの形で生体機能に関係している可能性もあります。現在、ポリアミンの生体内での化学反応の解明と合わせて、類縁体の分子構造に特徴づけられる分子間相互作用について調べる研究も行っています。

学会発表
・Pacifichem 2021 (Honolulu, オンライン開催)December, 20th, 2021, "The effects to HPLC or LC-MS analysis by intermolecular interaction of polyamine analogs" Koki Sugiura, Yuta Morishita, Takashi Fujimoto, Miyu Takamizawa, Mitsuru Tashiro, Tomoyuki Fujita and Ayumi Tsutsui

・日本糖質学会第39回年会(誌上開催)2020年11月「スペルミジン型終末糖化産物モデルの分子間相互作用」

筒井 歩、藤本 崇、森下雄太、高見澤美結、杉浦広季、藤田智之、田代 充

研究費助成
・ロッテ財団(2020年度)

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